世界も評価！ アニメ制作の“新手法”

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特集世界も評価！ アニメ制作の“新手法”

6月28日 19時50分

                                    

                                        日本時間の今月１８日に閉幕した、世界で最も歴史のあるフランスのアニメーション映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」。この映画祭で２２年ぶりに、日本人監督の作品が最高賞を受賞しました。湯浅政明監督の「夜明け告げるルーのうた」です。人魚の女の子と出会った少年の心の動きを丁寧に描いたこの作品。実は「残業なし・土日休業」で作られ、内容だけでなく、長時間労働が当たり前のアニメの制作環境に一石を投じています。作品の高い質を保ったまま「働き方改革」を実現させた、アニメの新たな作り方とは？（科学文化部・岩田宗太郎記者）                                    

                                 ２２年ぶりの最高賞                                                                          

湯浅政明監督の「夜明け告げるルーのうた」は、両親の離婚を理由に、寂れた漁港の町に引っ越してきた中学生の男の子「カイ」が、人魚の女の子「ルー」と出会い、それまで他人に閉ざしていた心を徐々に開いていくというストーリーです。                                        世界で最も歴史のあるアニメ映画祭として知られる、フランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭」で、最高賞にあたる「クリスタル賞」を受賞しました。この映画祭で日本人監督がこの賞を受賞したのは２２年ぶりで、スタジオジブリの宮崎駿監督、高畑勲監督に次ぐ３人目の受賞となりました。

                                                                          

湯浅監督は、授賞式の壇上でスピーチをしている際に、実は何の賞を受賞したかはっきりとわかっておらず、舞台裏に下がったあとに最高賞を受賞したことを知ったと言います。帰国した湯浅監督に話を聞くと、「とにかくよかったと思った。スタッフが頑張っているところや苦戦しているところも見ていたので、ほんとよかったなと思いました」と安どした表情を浮かべていました。

魅力は色使いと躍動感

湯浅監督はアニメ制作会社でテレビアニメ「ちびまる子ちゃん」などの作品に携わり、その後フリーとなって「劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ」などの制作を行ってきました。平成２５年には、元アニメーターのチェ・ウニョンさんとともにアニメ制作スタジオ「サイエンスＳＡＲＵ」を立ち上げ、テレビアニメ「ピンポン」などを制作。ことしは「夜明け告げるルーのうた」だけでなく、星野源さんが声優を務めたことでも話題となった、森見登美彦さんの小説が原作の「夜は短し歩けよ乙女」も公開し、２本の長編アニメ作品の相次ぐ公開が注目されました。

                                                                          

湯浅監督の作品の魅力は、なんといってもカラフルな色使いと、「湯浅節」とも呼ばれる疾走感と躍動感あふれるアニメーションです。「夜明け告げるルーのうた」では、人魚の「ルー」が所狭しと画面いっぱいに泳ぎ回ったり、町じゅうの人たちと一緒になってダンスをしたりと、随所にダイナミックな動きが見られます。湯浅監督とともに映画祭に参加したチェさんによりますと、審査員たちが口をそろえて「最高賞は『ルー』だ」と話すほど、高い評価を受けたということです。

動画を省略 人数は３分の１に

アニメーションは本来、手書きで一枚一枚動きをつけていく手法が一般的です。そのため、動きをつければつけるほど絵を書く枚数が増え、たくさんの人手と労力が必要となります。これだけキャラクターが動く作品を作るためには、さぞかし多くの人が関わったのかと思いきや、通常の劇場アニメーション作品を制作する３分の１の人数で作品を完成させたといいます。

この効率化を支えているのが、「ＦＬＡＳＨ」と呼ばれるコンピューターソフトです。まずは、キャラクターの動きの起点となる「原画」を手で描き、その絵をコンピューターに取り込みます。その後、キャラクターを顔や腕、目や髪の毛に至るまで細かいパーツに分け、「ＦＬＡＳＨ」の技術を使って、パーツごとにスライドさせるなど動きをつけていきます。こうすることで、一枚一枚手描きで動きをつけていた「動画」を省略することができ、多くの人と労力をかける必要がなくなりました。                                    

湯浅監督はＦＬＡＳＨの特徴について、「線がきれいで、劇場にすごく映えるだろうなと思った。手描きの絵よりも滑らかに動くのでそこが気持ちがいい感じがする。線がきれいだと色もきれいに見えるし、動きもちょっと洋風に見えるかも知れませんが、きれいに見える」と指摘。映画祭でもこの手法が意欲的だと高く評価されたということです。

異色の職場環境を実現                                                                          

ＦＬＡＳＨの導入は、作品の質だけでなく、制作スタッフの「働き方改革」にも大きく貢献しています。湯浅さんのスタジオでは、残業はほとんどなく土日も完全休業という、アニメ業界の中では異色中の異色といえる職場環境を実現させています。

                               
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これについて湯浅監督とチェさんは、アニメーションを作るには、ただ毎日絵を描くだけではなく、本を読んだり、美術館に行ったり、自然と触れあったり人と会ったりして、自分の世界を広げることが大切だとしています。また、ＦＬＡＳＨは手書きの風合いを残すこともでき、これまでの日本のアニメーションのよさを生かすこともできると考えています。

高品質を効率よく

「受賞によって、ＦＬＡＳＨでの制作スタイルを認めてもらえたという気がした」と話す湯浅監督。ＦＬＡＳＨ自体はこれまでも知られていましたが、複雑なアニメーションの制作には向かないと考えられていたということです。湯浅監督は今後もＦＬＡＳＨを活用して、より多くの人が楽しめる作品を作りたいとしたうえで、「きっとこうすれば、もっと楽しんでもらえるだろうという形がもう見えています」と次作に向けて自信をのぞかせていました。

                               
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日本のアニメは緻密な手描きが高い評価を受けてきましたが、作品を生み出す制作現場では、低賃金や長時間労働が常態化しています。今回の作品は、日本アニメが新たな手法でも質の高い作品を生み出せることを示すとともに、アニメーターの「働き方改革」という大きな課題に対しても、解決のヒントを提供しています。

                                                                  

                               
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                                                                                  科学文化部岩田宗太郎 記者


来源: 世界も評価！ アニメ制作の“新手法”